「うわぁ! 汚ねぇーんだよ!」
「美羽ちゃん、今日は帰った方が良いんじゃないのぉ?」
 もう、嫌だ。
 私はバッグも持たずに、高笑いを背に受けながら、部室から逃げ出した。
 
 そのまま学校から抜け出した。
 濡れたままの制服。
 履き替える事すら忘れていた上履き。
 こんな姿じゃ、家には帰れない。
 ふらふらと歩いて、店が並ぶ大通りに来た。
 日も暮れ始めていた為、所々に明かりが点き始める。
何をやってるんだろう……私は……。
 学校を抜け出したところで、何かが変わる訳でもないのに。
「ねえ、君」
 後ろから、低い男の声がした。
「君、いくら?」
「は?」
 振り返ると、男は私の腕を掴み、いやらしい目付きで私を見ていた。
「ちょっ……何なんですか!?」
「良いじゃん。少しくらい」
 何を言っているんだ? この男は!?
 私は男の腕を振り払い、必死に走った。
 見た所、酔っていたらしく、追い掛けて来る事はないだろう。
 電柱に手を付いて呼吸を整える。
「ちょっと、君」
 また、後ろから声を掛けられた。
「いやっ!」
 声の主が誰かも確認せずに、私は思いっ切り腕を振り回した。
 瞬時に、軽々しくそれを制止される。
「ああ、いきなりごめんね」
 声の主は、私と同じ制服を着た少女だった。
「君、天道美羽さんだよね?」
「は、はい」
 私の名前を確認すると、彼女は笑顔を作る。
「私は三年の琴峰由佳。あなたと同じバスケ部員よ」
「え?」
 彼女の正体を知って、なぜか安心した。
 しかし、どうして彼女は部活をやっている筈のこの時間に、こんな所にいるのだろうか。
 それに、琴峰由佳なんて言う名前は、あまり聞かないし、こんな人は見た事もない。
「あの……琴峰先輩は、本当にバスケ部員なんですか?」