隼人が死んでから、もう三ケ月は経つ。
 凍る様に寒々しい季節は、温かな春の季節に変わっていた。
 変わったのは季節だけではない。
 俺の周りで変わった事が幾つかある。
 隼人の死後、沙耶子は学校を辞め、バイトをしながらピアノ教室へ通う様になった。
 以前の様に、放課後に音楽室でピアノの練習をする事は当然ない。
 かつて沙耶子が記憶を取り戻す前まで、好いにしていた宮村という少年は、肩の治療を終え、彼女との事を思い返す事なく部活に励んでいるようだ。
 最近、この二人には会っていない。
 会えば、思い出してしまうからだ。
 あの日々の事を。
 忘れた方が良い。
 あんな日々は。
 それでも、どうせ忘れられないのだろ。
現に俺は毎月、隼人の墓参りへ行っている。
 隼人が自らの死を持って、俺達に今の様な安息を与えたのなら、花を手向ける事はしておかなければならないと思ったから。
 だから、今日もこの霊園に来た。
 郊外にあるこの霊園は、街全体を見渡す事が出来る、とても眺めの良い場所に位置している。
 枯れた花を新しい物に交換し、線香を置いて墓石の前で手を合わせる。
 ありがとう、守ってくれて。
 そう心の中で念じ続けた。
「綾人君」
 背後から声がした。
 振り向くと、そこには沙耶子がいた。
「どうして、ここに?」
 たしか、沙耶子は葬式の日から、ここには来ていない筈だ。
 それなのに、どうして今になって?
「私、やっと気付いたの。いや、もしかしたら前から分かっていたのかもしれないけど、今の私があるのは、隼人君のおかげなんだよ」
「ああ、そうだな」
「それなのに……あの記憶が戻った日、私は隼人君を拒絶した」
「それは、光圀のせいだ」
「うん。でも、そんな私を隼人君は守ってくれた。今日まで悩んで、やっとここに来れたの」
 沙耶子は俺の隣に来て、墓石の前で屈んだ。
「私の為に、凄く頑張ってくれたんだね。本当に……ありがとう。それと、ごめんなさい」