彼の体は薬でボロボロだ。
 その為、体力で負ける事はない。
 震えた声で、しかし怒りの混じった声で言ってやった。
「教えてやるよ。人の痛みをなあ!」
 指に力を込める。
 指先に触れる脈の鼓動が速くなっているのが分かった。
「これが、お前が今まで人に与えてきた痛みなんだよ! これが、僕達がお前から受けてきた痛みなんだよ!」
「うっうぅ」
 光圀は苦しそうにうめき声を上げながら、必死に訴えた。
「僕も……僕も辛かったんだよ。たまに思うんだ。自分は何をしているんだろうって。こんな事をして意味があるのかって……」
 彼の目から涙がこぼれ始める。
「く、苦しいぃ。お願いだ。警察にでも何でも行くから、もう、放してくれよ。もう、君達には近付かないから。殺せなんて自分で言ってたけど、やっぱり死にたくないんだよぉ……」
 こんな男でも、やはり人間だ。
 良心もまだ残っていたのだろう。
 そう思い、指から力を抜いた。
 そして、ゆっくりと彼の首から手を離してやる。
「だから、お前は弱いんだよ」
次の瞬間、彼の口から出た言葉はそれだった。
腹部が熱い。
見ると、腹には一本の包丁が刺さっている。
寒さのせいか、あまり痛みは感じないが、体が思う様に動かず、大きな声も出せなかった。
腹から血がドボドボとこぼれていく。
「光圀……お前……」
 僕の体はその場に崩れる様に倒れた。
「は、はっはっはっは。このバアーカ! 僕がそう簡単にお前の言葉を受け入れるとでも思ったのか!? 僕はお前と違って強いんだよ! 僕はなあ! 親を殺したんだ。その後、繁華街の路地裏で何人も失心させてやったよ! 僕は強いんだ‼」
 彼の声が段々遠くに聞こえて来る。
 視界が霞む。
 僕はここで死ぬのだろうか。
 僕は光圀を生かして、こんな所で死んでしまうのか。
 もし、そうなら沙耶子の幸せの為に、最後の力で僕は光圀を殺す。
 僕はよろけながらも立ち上がった。。
 それを見て、光圀は怯え出す。
 僕が前へと歩を進める度に、光圀は一歩ずつ後ずさり恐怖の混じる声で叫んだ。
「な、なんで立てるんだよ!? おぉい‼」