ここに置いてあるという事は、おそらく家の物だろう。
 家の扉の鍵穴に入れてみると、ぴったりと一致した。
 少しだけ嫌な予感がする。
 この中には何があるのだろうか。
 何もないのなら、それで良いのだけれど。
 ゆっくりとドアを開くと、きつい臭いが鼻を突いた。
 妙に鉄臭かった。
 所々にゴミ袋や屑ゴミが溜まっていて、とても靴を脱いで入れる様な場所ではない。
 靴を脱がず、土足で上がる。
 廊下を進み、リビングと思わしき部屋に入ると、そこにはあまりにも不気味で気分の悪くなる様な光景が広がっていた。
 壁一面に貼られた写真。
 その写真の中には、沙耶子の姿があった。
 普通に撮影した物ではない。
 遠くから望遠を効かせて、撮った様な写真ばかりだった。
 僕や綾人の写真もある。
「何だ……これは……」
 一枚の写真が目に入った。
 夕暮れの屋上で、怯える様にして鉄柵に縋り付く彼女の姿。
 まさか、沙耶子が屋上から落ちたのって……。
 それを見た瞬間、光圀へ向ける怒りが込み上げて来た。
「クソッ」
 そう叫んで、壁を強く叩いた。
 写真と埃が宙を舞う。
 机を見ると、数冊のメモ帳や本が重なっていた。
 その下に路線図が敷かれている。
 本やメモ帳をどかして路線図を見てみると、ここから五分程の場所にある駅に、蛍光ペンで印がされていた。
 そこから路線を伝って線が引かれている。
「この場所は……」
 線が止まった場所、それは以前に僕達が訪れた場所だった。
 あの夏の日、二人だけで過ごしたあの屋敷がある村の駅だ。
 そこへ行くとしたら、居場所は明らかだ。
 あの屋敷しかない。


 村に着いた頃には、既に時間は終電だった。
 しかも地方の違いか、雪が降っていてかなり寒い。
 積もる雪を踏みしめながら、屋敷を目指して歩き出す。
 夏に来た頃とは大分違っていて、虫の音すら聞こえない無音の世界が広がっていた。