じゃあ、あの日の翌日から来ていないのだろう。
「翌日、先生に光圀先輩の事を聞いたわ。そしたら、退学したって……」
 数秒間の沈黙が続き、彼女が呟く。
「どこへ行ったんだろう。光圀先輩……」
「家には行ったのか?」
「行ったけど、光圀先輩は出て来なかった。というより、震えた様な声で「帰れ」って怒鳴られた。その日から、皆は怖がって光圀先輩の家には近付いてないわ」
「家の場所を教えてくれないか?」
「……私は光圀先輩の家には行けない。でも、住所なら教えてあげる」
 彼女は近くに置いてあるバックから手帳を取り出し、一枚の紙切れを差し出した。
「光圀先輩の住所。お正月前に、聞き出すのに苦労したわ。結構、人気があったから、なかなか聞き出せるチャンスがなかったの。もう、意味はないけど」
「ありがとう。そろそろ行くよ」
 立ち上がると、彼女は一言だけ僕に忠告した。
「気を付けて。たぶん、今の光圀先輩は前とは違うから」
 彼女は僕に、詳しい詮索はしなかった。
 もしかしたら、あまり光圀幸太に関わりたくなかったのかもしれない。


 住所を頼りに着いた場所。
 そこは、どこにでもある様な集合住宅の一軒家だった。
 家の表面にはコケが生えていて、小さな庭には虫が湧いている。
 一目見て、人が住めるような場所ではない事は確かだ。
 それでも、ほんの少しの期待を捨てずに、インターホンを押した。
 数秒してから、もう一度押してみる。
 誰も出て来ない。
 やはり、もう誰も住んでいないのか。
 あの日から二年以上は経っている。
 当然だ。
 振り返り、家から出ようとすると、足元に置いてあった植木鉢を倒してしまった。
 ガシャンと鋭い音が響き、中に入っていた土がこぼれ出る。
放っておいても誰も気にしないだろう。
 そう思っていると、銀色に光る何かが土の底に落ちている事に気付いた。
 軽く土を払って、その銀色の何かを取り出す。
 これは鍵だ。