声が震え始める。
「そこには……幾つも……刃物で切った様な跡があって……」
 僕の服の袖を掴んで、宮村はすがる様に言う。
「僕、何も出来なかったんです。包丁で肩を刺されて、全く動けなくて……それで……」
 彼の言い分は良く分かった。
 宮村は必死で沙耶子を守ってくれたのだ。
「ありがとう。沙耶子を守ってくれて」
 そう言い残して、病室を後にした。


 待合室の椅子に座って早々、僕は頭を抱えた。
彼の話だけでは、それなりの収穫は得られなかった。
 おそらく、沙耶子は僕と話せる様な状況ではないだろう。
 ただ、沙耶子は聞き覚えのある名前を叫んでいた。
 
 光圀。

 沙耶子はその名を叫び、震えていた。
あの日、沙耶子が屋上から飛び降りた翌日の朝、光圀は僕に彼女の生存を告げた。
 もしかしたら、光圀は沙耶子と何らかの関わりがあったのかもしれない。
 ならば、今の僕に出来る事はただ一つ。
 光圀幸太に会う事だ。

 
 たしか光圀幸太といえば、かつて僕のいた学校の生徒会長だった。
 それなら、まずは学校に行って手掛かりを探るしかないだろう。
 しかし、もし光圀を見つけ出したとして、会ってどうするんだ?
 何を話すんだ?
もし、沙耶子があんな風になってしまった原因が、光圀にあるのなら、僕は彼に何をしでかすか分からない。
それでも、じっとなんてしていられない。
彼女の為に何かをしなければならない、自分自身の感情がそう告げていた。


吹奏楽部の楽器の音や、野球部の掛け声が聞こえて来る。
時間帯は丁度良く放課後だった。
とりあえず、職員用玄関にある受付で客用の名札を貰った。
ここの卒業生という事も幸いして、簡単に通して貰えたようだ。
「さて、とりあえずどこへ行くか……」