沙耶子は暴れる様にして、ベットから落ちた。
 這いつくばりながら部屋の隅へ行き、自らの肩を抱く様にして、ガタガタと震え出す。
「いやっ……こ、殺さないでぇ……ぁあああ!」
「どうしたんだよ!? 僕だよ。隼人だよ。分からないのか?」
「いやあああああああああ!! 殺される! 光圀が! 光圀が来る‼」
 悲鳴を聞き付けたのか、数人の看護師が病室に入って来る。
「これは、どういう事ですか!?」
 看護師等は僕の言葉を無視し、沙耶子を取り押さえる。
「宮久保さん! 落ち着いてください!」
「いやああああああああああああああ!!」
「鎮静剤を打ちます」
 一人がそう言って、注射器を彼女の腕に打ち込む。
 しだいに悲鳴は止み、沙耶子は眠りに着いた。
 看護師が僕に言う。
「しばらく、そっとしておいてあげて下さい」

 
一人の少年が沙耶子と一緒に、昨夜この病院に運ばれたそうだ。
 少年の名は宮村想太。
 最近、沙耶子の話の話題に出て来る、彼女の先輩だ。
 とても面倒見が良く、頼れる先輩だと言っていた。
 彼の病室は、彼女の病室のすぐ隣にあった。
 病室の中で、宮村はただボーっとしている。
 肩には大量の包帯が巻かれていて、とても痛々しい。
「君が宮村君か?」
 はい、と彼は小さい声で呟く。
「僕は平野隼人。沙耶子の兄だ」
 とりあえず、素性は兄という事で話を進めた。
 兄という言葉を聞いて、少しだけ彼の態度が変わる。
 僕はベットの横に置いてある椅子に座り、本題を切り出した。
「話して欲しいんだ。昨夜あった事」
 宮村は躊躇いながらも、小さい声で話し始める。
「昨夜、僕と平野さんは二人で帰ったんです。でも、その帰りに変な男に襲われて」
「変な男?」
「はい。なんか、平野さんの事をよく知っているみたいで……」
 彼女の知り合い。
 そう考えるのが妥当だろう。
「その男は、沙耶子に何か言っていたのか?」
「はい。平野さんの左腕に着けてあるリストバンドを取って、僕に見せたんです」