沙耶子が病院に運ばれた。
その知らせを聞いたのは、沙耶子を探し回った後に家の留守電を聞いた時の事だった。
幸いにも外傷は掠り傷程度だったそうだ。
 どうして、こうなったのだろう。
 沙耶子には不幸な事など起こさせないと、あの時誓ったのに。
 どうして?
 誰がこんな事を?
 彼女の身に起きた出来事、それは僕の気持ちを不安から、誰かへの憎しみへ変えていた。
 

翌日、沙耶子が目を覚ました。
 大学へ休みの電話を入れて、朝一番で病院へ行った。
 受付を済ませて彼女の病室へ行く。
 前にも同じ様な事があった。
 確か、あの時の沙耶子は記憶を失っていた。
 不安が胸を過ぎる。
 あんな事が二度もあってたまるか。
 きっと大丈夫。
 きっと大丈夫。
 そう自分に言い聞かせて、病室のドアを開けた。
 病室内は、朝方の眩しい光に照らされていた。
 その隅のベットに沙耶子がいる。
「沙耶子……」
 彼女はゆっくりと、こちらへ視線を向ける。
「分かるか? 沙耶子」
 うん、と軽く頷いた。
「分かるよ。隼人君」
 隼人君。
 それは、かつての僕に対しての呼び名だった。
「沙耶子、記憶が戻ったのか?」
 再び軽く頷く。
「沙耶子……」
 そう言って、僕は沙耶子に手を伸ばした。
 沙耶子も僕に手を伸ばす。
 嬉しさを通り越して、感動が僕の体を動かしていた。
 しかし、互いの手が触れ合った瞬間、沙耶子はすばやく手を離し、僕から後ずさる。
「どうしたんだ?」
 声を掛けた瞬間、悲鳴を上げる。
「ぁぁぁああああああ!」
「おい! 沙耶子。どうしたんだ?」
 呼び掛けてみても悲鳴は止まらない。