「そんな事ないです。私はこうして、宮村先輩の隣にいるんですから」
 彼は緩やかに頷いた。

   ♪
 
 ホープという楽譜を見つけたのは、高校一年生の終わりの事だ。
 始めはクラリネットを使って、興味本位で練習していたこの曲に、僕は徐々に引かれていった。
 こんな音色は聞いた事がなかった。
 僕は吹奏楽部でクラリネットを担当していた。
 音楽家である父へ反抗できずに入部した、吹奏楽部。
 そこで得たクラリネット。
 大人の考えに振り回される事が嫌だった。
 父の意見に反抗出来ずに、小学校卒業と共に諦めたヴァイオリン。
 長い間、再びヴァイオリンを弾く事を願っていた。
 だから、ホープの楽譜を自分なりのヴァイオリンの音として、アレンジを加えたのだ。
 それからというもの、僕は部活へ行く事もなく、放課後になると、この音楽室に一人で籠り、毎日ホープを弾いている。
 丁度良かったのだ。
 その年の始めに、両親は海外で音楽活動を始める為に、日本を離れたから。
 度々、吹奏楽部の以前の仲間達が僕を訪ねて来た。
「戻って来い」
 そう言われた。
 おそらく、皆は僕に対して怒っているだろう。
 いや、もう呆れてしまっているのかもしれない。
少数先鋭のこの部活で、クラリネットが一人消えた。
それは、大会を前に控えた吹奏楽部では、大きなダメージだった筈だ。
 申し訳ないと思っている。
 それでも、僕がホープやヴァイオリンに抱く思いは止められない。
 初めてだった。
 こんな曲に出会ったのは……。

   ♪

 蹲る宮村先輩に、私は掛ける言葉を必死に探した。
 しかし、言葉が見つからなかった。
 こんな時、何て言えばいいのか、どう接してあげればいいのか見当も付かない。