「もしかして、その人が?」
 私はゆっくりと頷く。
「はい、たぶん」
「なら、一緒に探さないか? この曲の手掛かりを」
 彼の表情には、悪ふざけや面白半分な雰囲気はなかった。
 その表情は真剣その物だ。
「はい! えっと……名前……」
「ああ、名乗るのが遅かったね。僕の名前は宮村想太。君は?」
「平野沙耶子っていいます」
 

 その日から、放課後は毎日ここに通った。
 とは言っても、ホープという曲の楽譜を、ここに置いて行った卒業生に関する手掛かりは、何も見つからないが。
 だから私達は、とりあえず二人でホープを演奏した。
 宮村先輩はヴァイオリン。
 私はピアノ。
 兄に、その日あった事を話す。
 すると、少しだけ寂しそうな顔をした。
 やはり、兄として妹が他人の元にいる事は、悲しい事なのだろうか。
 兄の事を思うと、少しだけ胸が痛んだ。
 それと同時に、宮村先輩へ向ける私の思いも、少しずつ変化していた。


「ねえ、沙耶子。宮村先輩って知ってる?」
 クラスメイトは、私に彼の話題を持ち掛けた。
「知ってるよ。いつも音楽室でヴァイオリンを弾いてるよね」
「あの人、格好良くない? 凄く爽やかっていうか、文化系男子の格好良さがあるっていうか」
「その先輩って、モテモテなの?」
「そうだよ! やばいよ! ファンの子が一杯いるんだから」
 あの人、そんなに人気があるんだ……。


 宮村先輩に出会ってから、毎晩あの屋敷の中で少年といる夢を見る。
 しかし、その日の夢は違っていた。
 床に裸で倒れている私。
 そして、すぐ隣に私を見下ろして嘲笑っている男。
 とても怖くて、それと同じ位に憎しみも湧いていた。
「沙耶子!」
その声で、私は目を覚ます。