それに、左手首のこの傷だって、いつ他人にバレるか分からない。
 少しだけ不安が募る。
 そんな私を見て、兄は優しく言葉を掛ける。
「大丈夫。お前なら大丈夫だ」
 そう言って、ポケットから何かを取り出した。
「これ、御守りだから持って行ってくれ」
 それは、兄の腕に巻かれている物と同じリストバンドだった。
「これ、隼人お兄ちゃんと同じ……」
「これなら、その傷も隠せるだろ」
 少しだけ緊張が解れた気がした。
 私は兄へ感謝の言葉を言い、車を後にした。


 担任は黒板に私の名前を書いた。
「平野沙耶子だ。皆、仲良くしてやるんだぞ」
 所々から珍しい物を見る様な、好奇心の含まれた視線が私に集中する。
「平野沙耶子です。よろしくお願いします」
 とりあえず一礼した。
 クラスの雰囲気は、思っていたよりもすんなりと私を受け入れた。
 例えば昼休み。
 一人でお弁当を食べる事になると覚悟していたが、数人のクラスメイトの女の子が「一緒に食べよう!」と誘ってくれた。
 教室の片隅で、机をくっつけ合う。
「平野ちゃんって、前はどこの学校に行ってたの?」
 一人が私に質問した。
「えぇ? えーと……」
 つい言葉に詰まってしまう。
 三年前に事故に遭って、それからずっと眠り続けてたなんて、言える訳がない。
「えっと、き、九州の方の……」
 つい、そんな大胆な嘘を吐いてしまった。
「へー。凄いね! そんな遠い所から来たんだ!」
「う……うん。まあね」
 私って、嘘吐くの下手だな……。
 そう思うと、これからの事が少しだけ不安になった。


「学校はどうだった?」
 家に帰ると、兄は心配そうな顔をして、そんな事を聞いてきた。
「え? うーん、まあ、楽しかったよ。友達もできたし」
 兄の表情が少しだけ緩む。