「おい! 沙耶子。初日から遅刻するつもりか? せっかく綾人が車で送って行ってくれるのに」
部屋の外から、兄の声が聞こえた。
「ごめん。隼人お兄ちゃん。先に外に出てて。すぐに行くから」
「しょうがないな。早くしろよ」
兄に急かされながら、机の上の教科書を鞄に詰め込む。
時間はまさに遅刻ギリギリだ。
玄関から出ると、真新しい初心者マークのステッカーが着いた車があった。
綾人さんが窓から顔を出して言う。
「沙耶子、早く乗れ。飛ばしてくから」
「おい、免許取ったくらいで調子に乗るなよ」
後部座席から兄が突っ込みを入れる。
「大丈夫。俺は未だに無事故無違反だからな」
そんな愉快な会話を聞きながら、私は後部座席に腰を下ろした。
♪
二週間ほど前の事だ。
私は病院のベットの上で目を覚ました。
兄や綾人さんの話では、私は交通事故による三年間の昏睡状態から、奇跡的に目を覚ましたらしい。
しかし、私には今までの記憶がなかった。
医者の話では、事故で頭を強打した為に、記憶障害を起こしてしまったそうだ。
一つだけ、気になっている事もある。
それは左手首に付いている傷跡だ。
この話を兄に持ち掛けると
「お前はドジだったからなぁ。料理とかしてる時に、包丁で切っちゃったんだよ」
ありえない。
ただ料理をしただけで、こんな所に傷が付く筈はない。
兄は何かを隠している。
そう思っているのだが、それ以上は兄に聞く事が出来なかった。
とても苦しくて悲しそうな表情を浮かべるから。
前の私がどんな人で、どんな事をしていたのか、考えると少しだけ怖い。
それでも、隣に座っているこの青年が兄という事だけは、変えようのない事実だ。
♪
学校に着くと、少しだけ緊張してきた。
会った事もなければ、話した事もないクラスメイト達と、私は共に学校生活を送れるのだろうか。
部屋の外から、兄の声が聞こえた。
「ごめん。隼人お兄ちゃん。先に外に出てて。すぐに行くから」
「しょうがないな。早くしろよ」
兄に急かされながら、机の上の教科書を鞄に詰め込む。
時間はまさに遅刻ギリギリだ。
玄関から出ると、真新しい初心者マークのステッカーが着いた車があった。
綾人さんが窓から顔を出して言う。
「沙耶子、早く乗れ。飛ばしてくから」
「おい、免許取ったくらいで調子に乗るなよ」
後部座席から兄が突っ込みを入れる。
「大丈夫。俺は未だに無事故無違反だからな」
そんな愉快な会話を聞きながら、私は後部座席に腰を下ろした。
♪
二週間ほど前の事だ。
私は病院のベットの上で目を覚ました。
兄や綾人さんの話では、私は交通事故による三年間の昏睡状態から、奇跡的に目を覚ましたらしい。
しかし、私には今までの記憶がなかった。
医者の話では、事故で頭を強打した為に、記憶障害を起こしてしまったそうだ。
一つだけ、気になっている事もある。
それは左手首に付いている傷跡だ。
この話を兄に持ち掛けると
「お前はドジだったからなぁ。料理とかしてる時に、包丁で切っちゃったんだよ」
ありえない。
ただ料理をしただけで、こんな所に傷が付く筈はない。
兄は何かを隠している。
そう思っているのだが、それ以上は兄に聞く事が出来なかった。
とても苦しくて悲しそうな表情を浮かべるから。
前の私がどんな人で、どんな事をしていたのか、考えると少しだけ怖い。
それでも、隣に座っているこの青年が兄という事だけは、変えようのない事実だ。
♪
学校に着くと、少しだけ緊張してきた。
会った事もなければ、話した事もないクラスメイト達と、私は共に学校生活を送れるのだろうか。