大学のキャンパスから出ると、冬場の寒々しい風が頬を撫でた。
 腕に巻いているリストバンドが、ふわふわしていて妙に温かい。
 首にマフラーを巻きながら呟く。
「寒いなあ……」
 吐いた白い息は、ゆっくりと寒空へ消えて行った。

♪ 

あの日、沙耶子が眠り始めてから三年が経ち、僕は大学に進級していた。
 沙耶子は未だに目を覚ます事はない。
 それでも週に一度、必ず彼女の見舞いに行く。
僕は信じているから。
天道が言っていた事を。
高校を卒業して以来、天道とは連絡も取り合っていないし、会ってもいない。
甘えたくなかった。
僕は、あの時とは違うから。

               

 受付を済ませて、彼女の病室へ行った。
 やはり、そこにある光景はいつもと同じ。
 ベットの上で横たわる沙耶子だけだ。
 しかも、彼女の姿は成長する事もなく、高校時代の容姿を、そのまま保っている。
「沙耶子……」
 その名を口にしてはみたものの、何も反応がない。
 あの日、沙耶子と共に過ごした日々。
 笑ったり、泣いたり、怒ったり、あの頃はとても楽しかった。
 それなのに、ここ最近では、笑ったり、泣いたりする事も出来ない。
「隼人」
 後ろから声を掛けられた。
 振り返ると、そこには綾人がいた。
 なんだか元気がない。
「どうした? 大丈夫か?」
「ああ……ちょっとな。さっき、院長に呼ばれたんだけど……」
「何か言われたのか?」
 綾人はゆっくりと頷く。
「実は、沙耶子の入院の事なんだが……」
「入院費は僕と綾人がバイトで、稼いでるじゃないか」
「いや、入院費の事じゃないんだ」
「じゃあ、なんだよ?」