私は見ていた。
 真昼の日射しが降り注ぐ校舎裏で、自分を抱く様にして蹲り泣いている一人の少年を。
 ただ、見ている事しか出来なかった。
 私はあまりにも無力で、彼の世界に入る事すら出来なかったから。
 いつからだろう。
 私から見て、彼が変わった様に感じたのは。
 もしかしたら、あの日からかもしれない。
 あの日、学校では自殺未遂をしたという女子生徒の噂で持ち切りだった。
 きっと、その日からだ。
 彼が……私の見る平野隼人が変わったのは……。

   ♪

 ただ、何の意味もなく毎日を過ごしていた。
 朝起きて、行きたくもない学校へ行き、誰もいない家に帰る。
 そんな生活が始まって、もう一年以上は経った。
 沙耶子の目は未だに覚める気配がない。
 もう、待っていても意味がないのかもしれない。
 そう思った僕は、最近まで続けていた彼女への見舞いにすら行かなくなっていた。
 入院費等の細かい事は全て綾人に任せ、僕はというと、ただ日々を惰性の様に過ごしているだけだ。
 こんな事をしていて良いのか。
 度々そう思う。
 しかし、そんな事はなるべく考えない様にしていた。
 もし、そんな事を考えた先に、ある答えを見つけたとして、それが何であるかが分からないからだ。
 最悪、今の僕なら学校だって辞めかねないから……。


 一週間程前、学校からの帰り道でタスポを拾った。
 このカードは、法律に反して煙草を買う未成年者への対策として作られた物だ。
 これがあれば、カードの中に入っている金額が尽きない限り、自販機で煙草を買う事が出来る。
 しかし、それも僕の様な学生が拾ってしまえば意味はない。
 カードを拾った帰り道、試しに煙草を一箱だけ買ってみた。
 別に吸いたかった訳ではない。
 ただ、何かに依存したかったとでも言うべきか。
 煙草は寂しさを紛らわすには打って付けだったから。
 今になって、ようやく分かった様な気がする。