事の発端は、高校へ入学した直後の事だった。
 教室で授業を受けていると、突然来た担任が息を荒げて僕を廊下に呼び出した。
「平野君、落ち着いて聞いて。あなたの御両親が交通事故で亡くなったわ」
「は?」
 突然の話に、そんな間の抜けた声を上げていた。
 正直、信じる事が出来なかった。
 その場では……。
 
病院で両親の亡骸を見た。
 顔には一枚の白い布が掛けられていて、体は冷たくなっている。
 それを見た瞬間、背筋に悪寒が走った。
「どうして、僕がこんな目に……」
 涙を流しながら、そう連呼し続けた。
 頬を伝う涙は、この冷え切った空間の中では、とても温かく感じられた。
 
その後は、親戚からの仕送りで自分の生活を維持している。
 普通に生活をする分では、何も変わらない。
 ただ、両親がいなくなっただけ。
 そう考えれば、孤独な思いをせずに済む。
 しかし、学校で接する友人同士の明るい空間には、馴染む事が出来なかった。
 だから昼休みは校舎裏で過ごしている。
 この場所こそ、僕が馴染む事の出来る唯一の空間だから。

   ♪

 校舎裏に降り注ぐ真昼の明るい日射しは、青葉が茂る数本の木蓮を通して、綺麗な木漏れ日を作りだしていた。
木漏れ日の下に少女が一人、腰まで伸ばした黒い髪を、微かな風に靡かせ佇んでいる。
 細い彼女の体を包む制服の袖やスカートから覗く肌が、とても白くて綺麗だった。
左の袖から覗く腕には、リストバンドが着けられている。
 それがどこか印象的だ。
 珍しいな。
 こんな所に僕以外の誰かがいるなんて。
 彼女に声を掛けてみる事にした。
「なあ、ちょっと」
 声を掛けてみると、少女は肩をビクリとさせて、こちらを振り向いた。
「あ、えっと……」