驚く私の質問に、母は面倒臭そうに唸る。
「何でもないわよ」
「何でもなくないよ! 仕事で何かあったの?」
 母は軽く舌打ちを鳴らし、私の頬を叩いた。
 私の体は床に倒れる。
「痛っ、何するの!?」
「いちいち、うるせえんだよ!」
 そう言って、私の髪を引っ張り、風呂場に連れて行った。
「痛い、やめて! いやっ」
 私の声は、しだいに震え始める。
「……か、母さん……何? 何をするの?」
 母は私の顔を、そのまま水の張った浴槽の中に叩き付けた。
 息が出来ない。
 辛い。
 苦しい。
 髪を上に引っ張られ、浴槽から引き上げられる。
「やめて……母さん。お願い……やめて」
 か細い声で、そう言い続けた。
 その言葉を聞いた母は眉にシワを寄せる。
「私を……私を母さんなんて呼ぶなああああああああ!!」
 そう言って、再び私の顔を浴槽に突っ込んだ。
「ごめんなさい! もう、何も言いませんから! お願い! やめて!」
 同じ様な事を数十分繰り返され、その度に私は叫び混じりに、そんな言葉を吐き続けた。

それからというもの、母は毎日の様に、私に暴力を振るい続けた。
 悪いのは母ではない。
 生き残ってしまった私なのだ。
 左腕を何度もカッターナイフで切った。
 それでも死ねなかった。
 いつも刃を深く皮膚に入れていないからだ。
 ならば、私は何の為にこんな事をしているのだろう。
 そんな事をよく考えてしまっていた。
 それに呼応するかの様に私の左腕には、たった数日で幾つもの傷が出来上がっていた。


とある休日の事だった。
綾人君は、私を買い物に連れ出してくれた。
たぶん私を元気付ける為だろう。
「はい、沙耶子にプレゼント」
 綾人君は、私にリストバンドを買ってくれた。