「?」
「平野隼人だろ。全て、沙耶子から聞いている」
 烏丸と名乗る少年が言う沙耶子という名前に、胸が軋む。
「沙耶子とは、どんな関係なんですか?」
 彼は少しだけ言葉に間を置いた。
「中学時代の、ただのクラスメイトさ」
 彼はバッグから、何かを取り出した。
「とりあえず、これを見てくれ」
差し出されたのは、一冊の日記帳だった。
 可愛らしい、いかにも女の子が使う様な留め具の付いた物だ。
 唾を飲み込み、最初のページをめくった。

   ♪

 中学一年生に進級したある日、父さんは多額の借金を残して自殺した。
 別荘で、父方の叔母と暮らしていた私は、屋敷を離れ、父の実の妻と二人で住む事になったのた。
 この人が私の母。
 そう思う事にした。
 母は、無愛想を絵に描いた様な人間で、私をここまで育ててくれた叔母とは違って、一欠片の愛情も感じなかった。
 当然だ。
 父が死んで、その不倫相手の子供を押し付けられたのだから。
 こうなっても仕方がない。
 それでも、母に好きになって貰いたくて、愛して貰いたくて、努力した。
 仕事へ行く母に代わって、掃除や洗濯の様な、自分で出来る最低限の事はしていた。

 でも、この街に来て、良い事もあった。
 烏丸綾人君との出会いだ。
 クラスメイトが私の家庭事情に関して、ヒソヒソと悪口を言っているにも関わらず、綾人君は気にする事なく話し掛けてくれた。
 学校では殆ど、綾人君と一緒に過ごした。
 綾人君がいるから、毎日頑張って学校へ行く事が出来る。
 そう思えた。
 綾人君こそが、私にとっての希望であり光であったのだ。

 家に帰ると、母がグッタリと布団の上に倒れていた。
頬には大きな傷がある。
「どうしたの!? それ!」