門前では、数人の先生や生徒会役員が挨拶運動をしていた。
「やば。沙耶子、降りて」
「うん」
 私は慌てて、自転車から降りた。
 先生に二人乗りしている所なんて見られたら、たぶん隼人君の自転車通学を取り消されてしまう。
 朝、よく寝坊する私にとって、それはとても痛い。
「おはよう。宮久保さん! 今日も綺麗ですね! とても美しい! 本当に!」
 生徒会長の光圀先輩が、挨拶運動のどさくさに紛れて、そんな在り来たりな口説きをして来た。
「お、おはようございます」
 少々、苦笑気味な挨拶を返した。
「おい、光圀。沙耶子と話すんなら、まずは僕を通せって、いつも言ってるだろ」
「僕がどうしようと勝手さ。二人でバスケをした時、僕に何回シュートを決められたんだっけ?」
「うっ、それを言われるとなぁ……。じゃあ、今日もやるか?」
「良いだろう。とりあえず、お前には先輩と後輩の強さの違いを、分からせてやる必要がありそうだな」
 いつもと同じ口論が始まってしまった。
 まったく、二人とも学習しないんだから。
「いや、バスケなら私が一番だぞ!」
 ああ、そういえばもう一人、学習しない子がいた。
 口論する二人の間に、天道ちゃんが分け入って来る。
「おい、天道には関係ないだろ!」
「そうだ。天道さんは引っ込んでてくれ!」
「何を言う! バスケだろ? なら私も混ぜろ!」
 皆、騒ぎ過ぎだ。
「もう! 本当に遅刻しちゃうよ」


結局、遅刻ギリギリの登校になってしまった。
 眠くなる様な先生の話を延々と聞きながら、午前中の授業を終えた。
「よし!」
 授業が終わると、隼人君は突然立ち上がった。
「な、何?」
「何って、バスケだろ」
「ああ。そういえば、そんな事を言ってたね」
 隼人君は私の手を取る。
「よし! 行くぞ!」
「うん!」
 この手が、私をどこまでも引っ張って行ってくれる。
 隼人君となら、どんな困難も乗り越えて行く事が出来る。
 そんな気がした。