部屋の中に、目覚まし時計の音が鳴り響く。
「う、うぅん」
 寝起きの体を起こして、時計を見る。
 時間は既に、八時を回っていた。
「やばい! 遅刻だ!」
 慌てて、パジャマから制服に着替え、階段を駆け降りた。
 リビングには、朝刊を読みながらトーストを口に銜えている父さんがいる。
「ちょっと、あなた! お行儀が悪いわよ。食事中に新聞なんて」
 キッチンから、母さんの注意の声が聞こえる。
「ああ、悪い」
 父さんは慌てて新聞紙を丸めた。
 いつもと同じ朝。
 なんだか、とても安心する。
 慌てて身支度をしている私に、母さんは煽てる様に言う。
「沙耶子。あなたの彼氏が外で待ってるわよ」
「え?」
「早く行ってあげなさい。このままじゃ、二人で遅刻しちゃうわよ」
 私は鞄を手に取り、玄関を飛び出した。
「おはよう」
 隼人君は自転車に跨って、私を待っていてくれていた。
「ありがとう。待っててくれて」
「どうって事ない。早く乗れよ。飛ばして行くから」
「うん!」


 夏の透き通った風を感じながら、通学路を走る。
 とても涼しくて気持ちが良い。
「おーい!」
 隼人君が誰かに手を振っている。
 道の先には綾人君がいた。
「おはよー! 綾人君!」
 綾人君は、ちらりとこちらを向き、格好良く右手を上げて合図をした。
「相変わらずクールだな。あいつは……」
「それが綾人君の良い所だよ。格好良いじゃん」
 隼人君は苦笑する。
「そうかなぁ。なんか、あいつ無駄にモテモテだし」
「大丈夫だよ。隼人君はモテモテじゃなくても、私がいるから!」
「お前がいてくれると、本当に安心するよ」
 そんな事はない。
 むしろ、安心するのは私の方だ。
 本当に、隼人君がいるだけで毎日が幸せだ。