「僕は光圀幸太。知らないかい? よく全校集会では、壇上の上で挨拶をしてるんだけど」
そういえば、光圀幸太といえば、この学校の生徒会長だ。
「どうして、沙耶子の事を?」
「昨日あった事は、先生から聞いていたんだ。まだ、ニュースにもなっていない。とりあえず、宮久保さんと一番仲が良い君に伝えておこうと思ってね。行ってあげな。宮久保さんの為にも。きっと喜んでくれるよ」

 彼が言っていた病院は、バスを何本か乗り継ぎした所にあった。
 駐車場も大きく、病棟もいくつかある大きな病院だった。
 病院内は平日という事もあり、とても閑散としていた。
 受付を済ませ、彼女の病室へ向かう。
 受付の看護師が言うには、先程、僕と同い年位の少年が来ていて、今もいるそうだ。
 その少年というのがいったい誰なのか、そんな事は気にならなかった。
 ただ、沙耶子が無事で良かった。
 それだけだ。
 僕の心臓はバクバクと、大きな鼓動を鳴らす。
 鼓動だけで分かる様に、とても緊張している。
 いや、逆に怖いくらいだ。
 それでも、僕は沙耶子に会って、どうしてあんな事をしたのか聞かなければならない。
 それが、今しなければならない事だと思ったから。
 部屋の番号と名前を確認し、ゆっくりとドアを開ける。
 そこには、ベットに横たわる彼女の姿があった。
 隣の椅子には、見知らぬ少年が座っている。
 確かに、受付で看護師が言っていた様に、僕とそれほど年は変わらないだろう。
 現に、彼は隣町の私立高校の制服を着ている。
 どこか、大人びた顔立ちからは、悲しげな表情を隠し切れていないのが覗える。
 やはり、彼も僕と同じで、沙耶子がこうなってしまった事に苦悩しているのだろう。
 彼は数秒間、僕を見て決心した様に言った。
「君が来るのを待っていたよ」
「?」
「俺の名前は烏丸綾人」
「僕は」
 彼は僕の言葉を遮る。
「知っているよ」