「ええ、勿論」
「ありがとうございます!」
 沙耶子は、とても嬉しそうだ。
 こんな彼女を見たのは久しぶりだ。
「それでは、明日からここに来てください。他の生徒さんとも、顔を会わせたいので」
「はい!」
 いつか、沙耶子は気付く日が来るのだろう。
 この老婆が、自分の祖母だという事に。
 友人や恋人とは違う、自分にとって最も近い存在。
 家族。
 きっと、沙耶子はその温もりを知る筈だ。



  ♪



 数日分の洋服や必需品の入った旅行鞄と、大金の入った分厚い財布。
 戸締りを確認し、自宅を後にした。
 降り注ぐ日射しは、夏の訪れを予感させている。

 今日、俺は雫に会いに行く。
 ようやく決心が着いたのだ。
 いや、もしかしたら、ここ数年で失くした物が多過ぎて、寂しくなっただけ。
 だから、そんな寂しさを紛らわす為だけに会いに行くのかもしれない。
 本当のところは、自分にはよく分からない。

 新幹線に乗り三時間程。
 その後に数本の電車を乗り継ぎして、目的地に着いた。
 駅から出ると、すぐ側に海が見えた。
 とてもよく潮が香ってくる。
 見渡した海はどこまでも広がっていて、向こう側には水平線が見えた。
「たしか、駅に迎えが来てる筈……」
 辺りを見回すと、一台の車が海沿いの道路に停まっている。
 赤くてコンパクトな外車。
 たしか、あれは親父が使っていた愛車だ。
 駆け寄ってみると、やはり側には親父がいる。
「親父」