暫くして、沙耶子が目を覚ました。
 しかも、彼女の口振りから察するに、記憶は完全に戻っていたのだ。
 医者の話では、何か大きなショックを受けると、忘れていた記憶が戻る事があるという。
 病室のベットで沙耶子は半身を起こし、俺にしがみ付いた。
「……怖かったよ」
 沙耶子の声は震えていた。
 余程、怖かったのだろう。
 俺の体にしがみ付く彼女の頭を、優しく撫でてやった。


 沙耶子は昨日あった事について、何かを語る事はなかった。
 昨日の夜、二人を襲った不審者の事も分からないうちは、沙耶子を一人で外に出す訳にはいかない。
時計を見ると、バイトの時間が迫っていた。
 隼人の携帯に、沙耶子の事を伝え、俺は病院を後にした。



 バイトを終え、沙耶子の事を確認する為に隼人に電話を掛けた。
 数回のコールが鳴る。
 しかし、隼人が電話に出る事はなかった。
 いつもなら、すぐに電話に出てくれるというのに、一体どうしたのだろう。
 根拠のない、それでいてとてつもなく嫌な予感がした。

 病院へ行くと、沙耶子は眠っていた。
 看護婦の話によると、突然気が狂ってしまい、鎮静剤を打って大人しくさせたそうだ。
 更に、病院のどこを探しても隼人が見つからない。
 携帯に電話を掛けても、繋がる事はかった。
「どこに行ったんだよ……隼人……」



 隼人が死んだ。
 その唐突な知らせが俺の耳に届いたのは、一週間後の事だった。


  ♪


 精神的な治療やカウンセリングを終え、沙耶子は退院した。