二週間程して、沙耶子は再び高校へ通う事を決意した。
 勿論、学校は沙耶子が以前通っていた所だ。
 沙耶子にとって、知り合いも誰もいない学校。
 良い友達が出来ると良いのだが……。


 沙耶子には今までの記憶がない。
 俺や隼人にとって、それは悲しい事だ。
 しかし、沙耶子にとっては今の生活が幸せな筈。
 なら、今のままで良いのではないだろうか。
 そんな考えが浮かんでいた。

 隼人の話によると、沙耶子にとって目標ができたそうだ。
 宮村想太という彼女の先輩で、放課後に二人でピアノとヴァイオリンを演奏しているという。
 良かった。
 沙耶子にとって、頼りになる人が出来たのなら安心だ。



 地元のファーストフード店で、偶然にも蓮に会った。
 二人で椅子に座り、ポテトを摘まむ。
「久しぶりだな、綾人。今は、何をやってるんだ?」
「バイトだ。でも、沙耶子の目が覚めたから、少しだけバイトの量を減らしたんだけどな」
「そうか。本当に良かった。沙耶子ちゃんの目が覚めて。じゃあ、晴れて感動の再会ってわけか」
 蓮はニヤニヤしながら俺を見る。
「ああ。そうだな……」
 言い出せなかった。
 今、俺や沙耶子が置かれている境遇。
 そして、隼人の存在を。
 本当の事を何も話せない。
 そんな自分が、情けなくて憎らしくて仕方がなかった。



 それぞれが穏やかに日常を過ごしている。
 そんな矢先、悲劇は起こった。
 沙耶子が学校からの帰り道に不審者に襲われ、病院に運ばれたという知らせが入った。
 俺は急いで車を走らせ、病院へ向かった。
 幸い、命に別状はなかった様で、外傷は擦り傷程度だった。
 しかし、沙耶子と一緒にいた彼女の先輩、宮村想太は肩に重傷を負ったらしい。