帰宅して早々、トイレに籠った。
便座に手を着き、そのまま一気に嘔吐する。
 涙や鼻水で、僕の顔はもうグショグショだ。
 汗で貼り付くシャツが、異常にヌルヌルしていて気持ちが悪い。
 自室へ戻り、布団の上に倒れた。
 今日までの出来事全てが、夢であれば良いのに。
 そんな、ありもしない事を思いながら、ゆっくりと目を瞑った。


翌日の学校では、昨日の出来事の噂で持ちきりだった。
「隣のクラスの宮久保って子、昨日の放課後に屋上から飛び降りたんだって」
「えー、マジで!? どうして?」
「うーん……私が思うに、宮久保ちゃんって平野君と仲が良かったじゃん。たぶん、それに関係してるんだと思うよ」
 僕に聞こえないように言ってはいるようだが、ほぼ聞こえていた。
 そんな面白半分に話すクラスメイトに、段々と怒りが募っていく。
 そして、屋上から落ちた沙耶子を見捨てて、逃げた自分への怒りも……。
 あの後、沙耶子はどうなったのだろう。
 血はそれ程出ていなかったから、もしかしたら職員か誰かが早く見つけていれば、死んではいないかもしれない。
 でも、もし死んでいたら……。
 そう思うと、気分が悪くなってきた。
 もういっその事、今日は早退しよう。
 そう思い、だるい体を起こして廊下に出た。
 丁度、チャイムが鳴る寸前だった為、昇降口には誰もいない。
「平野さん」
 後ろから呼び止められた。
 振り返ると、そこには見覚えのある少年が立っていた。
 上履きや名札の色から察するに、三年生の先輩だろう。
「何か用ですか?」
「ああ、やっぱり。君が平野君か」
「そうですけど……」
 僕とは対に、少年はとても涼しげな表情をしている。
 何だ? この人は。
 今は誰かと話すなんて気分じゃないのに。
「宮久保さんは生きているよ」
 その言葉が、今にも立ち去ろうとしていた僕を止める。
「どう言う事ですか?」