やはり、先日食べたクッキーと紅茶だ。
俺は、それに手を付ける事なく話を切り出した。
「あの、一つ訊きたい事があるんですけど……。もし、間違っていたらごめんなさい。すぐに帰りますんで」
「先日の業者の方でしょ? どうしたんですか?」
「あなたの親類に、宮久保沙耶子という女の子はいませんか?」
老婆は表情を変えず、動揺する事もなく答える。
「ええ。いますよ。沙耶子は、私の孫娘です」
「えぇ!?」
動揺してしまったのは俺の方だった。
確か、沙耶子の日記には祖母の事も書かれていた。
失踪したと。
「じ、じゃあ、沙耶子の居場所も知っているんですか? 沙耶子の境遇も?」
「ええ、知っていますよ。ここからすぐ近くの病院で眠っているんでしょう」
「どうして、そんなに落ち着いていられるんですか?」
沙耶子の保護者は家庭内暴力を振るい続けた、あの義理の母親だけだった。
それなのに、どうしてこの人は、今まで沙耶子に会う事すらしなかったんだ。
「今まで、何をしていたんですか? 沙耶子をほったらかしにして」
老婆は少しだけ考えて、口を開いた。
「信じていますから。沙耶子ちゃんの事を。
私達、宮久保の家は、かつてはとても大きな
富豪だったんですよ。でも、私の息子。沙耶子の父の企業の失敗により、会社は倒産。沙耶子の父と母は、共に自殺してしまいました。この街には、宮久保の遠い親類がいたんです。だから、沙耶子に人並みの生活をさせてあげるには、その人に預けるしかなかったんです。私がいると、向こうの家にも迷惑が掛かってしまいますからね。だから、失踪したという理由で、かつてお世話になっていた大阪の音楽教壇に居座っていました」
「それで先日、ここに引っ越して来たんですか……」
「ええ、そうです」
この人も、今まで苦労していたんだな。
「沙耶子、とても頑張っていました。中学の頃の文化祭では、ピアノ伴奏までして」
「へぇ。あの子がピアノの伴奏を。それじゃあ、私があの子にピアノを教えたのも、無駄にはならなかった様ですね」
なるほど。
沙耶子のピアノの才能は、この人からというわけか。
部屋を見回すと、中心にはピアノ、壁には幾つもの楽器が据え付けられている。
俺は、それに手を付ける事なく話を切り出した。
「あの、一つ訊きたい事があるんですけど……。もし、間違っていたらごめんなさい。すぐに帰りますんで」
「先日の業者の方でしょ? どうしたんですか?」
「あなたの親類に、宮久保沙耶子という女の子はいませんか?」
老婆は表情を変えず、動揺する事もなく答える。
「ええ。いますよ。沙耶子は、私の孫娘です」
「えぇ!?」
動揺してしまったのは俺の方だった。
確か、沙耶子の日記には祖母の事も書かれていた。
失踪したと。
「じ、じゃあ、沙耶子の居場所も知っているんですか? 沙耶子の境遇も?」
「ええ、知っていますよ。ここからすぐ近くの病院で眠っているんでしょう」
「どうして、そんなに落ち着いていられるんですか?」
沙耶子の保護者は家庭内暴力を振るい続けた、あの義理の母親だけだった。
それなのに、どうしてこの人は、今まで沙耶子に会う事すらしなかったんだ。
「今まで、何をしていたんですか? 沙耶子をほったらかしにして」
老婆は少しだけ考えて、口を開いた。
「信じていますから。沙耶子ちゃんの事を。
私達、宮久保の家は、かつてはとても大きな
富豪だったんですよ。でも、私の息子。沙耶子の父の企業の失敗により、会社は倒産。沙耶子の父と母は、共に自殺してしまいました。この街には、宮久保の遠い親類がいたんです。だから、沙耶子に人並みの生活をさせてあげるには、その人に預けるしかなかったんです。私がいると、向こうの家にも迷惑が掛かってしまいますからね。だから、失踪したという理由で、かつてお世話になっていた大阪の音楽教壇に居座っていました」
「それで先日、ここに引っ越して来たんですか……」
「ええ、そうです」
この人も、今まで苦労していたんだな。
「沙耶子、とても頑張っていました。中学の頃の文化祭では、ピアノ伴奏までして」
「へぇ。あの子がピアノの伴奏を。それじゃあ、私があの子にピアノを教えたのも、無駄にはならなかった様ですね」
なるほど。
沙耶子のピアノの才能は、この人からというわけか。
部屋を見回すと、中心にはピアノ、壁には幾つもの楽器が据え付けられている。

