鈴木先輩は大きく振りかぶる。
 速球が蓮のキャッチャーミットに入る。
 速い。
 中学時代と比べると、格段に速さが増している。
 二球目。
 俺はバットを振った。
 しかし、その速球は、また真っ直ぐにキャッチャーミットへ入る。
 三球目。
 ボールの見送りは終わりだ。
 この一級に賭ける。
 速球が飛んで来る。
 俺が力強くバットを振ると共に、鋭い金属音がグラウンドに響いた。
 鈴木先輩は、やはり負けたというのに笑っている。
「あいがとう。もう、悔いはない」
「そうですか。俺は、今日までずっと野球をしてきました。でも、もう終わりです。楽しかったです」
 鈴木先輩に一礼した。
 立ち去り際に、ふてくされた様な蓮の肩に軽く手を置き「じゃあな」とだけ言って、その場を去ろうとした。

「綾人!」

 後ろから、蓮が俺を呼ぶ。
 振り返ると、蓮は俺にボールを投げる。
「ぅお!」
 素手で硬式ボールを取った為、手がじんじんと痛んだ。
 蓮は頬に涙を伝わせ、叫んだ。
「いつか、また野球するぞ! 絶対に忘れんなよ!」
 あいつ、昔から子供っぽい所はあったけど、泣き出した所なんて初めて見たなぁ。
「ああ! その時はよろしくな!」
 泣きながら叫ぶ蓮に、不器用ながらも俺は思いっ切り笑ってやった。



 スーパーの裏方、コンビニの店員、出版社の原稿回収、引っ越し業者のバイト。
 特に、深夜のコンビニは大変だ。
 時々、立ちの悪い不良共が店内を荒らしに来るのだ。
 そういう奴等と暴力沙汰を起こして、もう何件かはバイトをクビになっている。