しかし、母親の死が切っ掛けで、家庭内暴力は消えた筈だ。
もしかしたら、沙耶子はそれが嬉しくてたまらなかったのかもしれない。
そんな考えが、俺の背筋を凍らせた。
高校野球の練習は、中学野球と然程変わりはなかった。
キャッチボールで肩を慣らし、本格的な練習に入る。
基本的な練習は中学と一緒だ。
中学時代の先輩でありピッチャーでもあった鈴木先輩は、やはりここでも一軍ピッチャー候補の座を勝ち取っていた。
来年には、一軍入りは確定らしい。
中学時代と同様、俺のキャッチボールの相手はやはり蓮だ。
彼の野球に対する執着心や実力は、以前よりも更に上がっていた。
そして、性格も少しだけ固くなった様な気がする。
俺の暴力沙汰、沙耶子や美咲の一件を、未だに忘れられないでいるのだろう。
転機というのは、何の前触れもなく訪れる。
そういう物だ。
沙耶子は、俺に一冊の日記帳を手渡した。
「これは?」
「日記帳」
その日記帳は、とても可愛らしい装飾が施されていて、いかにも女の子が使う様な物だ。
所々に見られる傷や汚れを見るに、かなり昔の物というのが分かる。
「お前、日記なんて書いてたんだ。読んで良いのか?」
「まだ、駄目だよ」
「じゃあ、いつなら良いんだよ?」
沙耶子は悲しげな顔をする。
「私に……何かあった時」
沙耶子とこんな会話をしたのは、夏休みが過ぎた、ある土曜日の事だった。
その時、俺は知らなかったのだ。
後に、沙耶子が俺の前からいなくなってしまう事を……。
数日後、沙耶子は学校の屋上から飛び降りた。
幸い、命だけは助かる事が出来た。
しかし、医者の話では奇跡でも起きない限り、もう目覚める事はないのだそうだ。
もしかしたら、沙耶子はそれが嬉しくてたまらなかったのかもしれない。
そんな考えが、俺の背筋を凍らせた。
高校野球の練習は、中学野球と然程変わりはなかった。
キャッチボールで肩を慣らし、本格的な練習に入る。
基本的な練習は中学と一緒だ。
中学時代の先輩でありピッチャーでもあった鈴木先輩は、やはりここでも一軍ピッチャー候補の座を勝ち取っていた。
来年には、一軍入りは確定らしい。
中学時代と同様、俺のキャッチボールの相手はやはり蓮だ。
彼の野球に対する執着心や実力は、以前よりも更に上がっていた。
そして、性格も少しだけ固くなった様な気がする。
俺の暴力沙汰、沙耶子や美咲の一件を、未だに忘れられないでいるのだろう。
転機というのは、何の前触れもなく訪れる。
そういう物だ。
沙耶子は、俺に一冊の日記帳を手渡した。
「これは?」
「日記帳」
その日記帳は、とても可愛らしい装飾が施されていて、いかにも女の子が使う様な物だ。
所々に見られる傷や汚れを見るに、かなり昔の物というのが分かる。
「お前、日記なんて書いてたんだ。読んで良いのか?」
「まだ、駄目だよ」
「じゃあ、いつなら良いんだよ?」
沙耶子は悲しげな顔をする。
「私に……何かあった時」
沙耶子とこんな会話をしたのは、夏休みが過ぎた、ある土曜日の事だった。
その時、俺は知らなかったのだ。
後に、沙耶子が俺の前からいなくなってしまう事を……。
数日後、沙耶子は学校の屋上から飛び降りた。
幸い、命だけは助かる事が出来た。
しかし、医者の話では奇跡でも起きない限り、もう目覚める事はないのだそうだ。

