蓮、沙耶子、美咲。
 俺達が再び、笑い合える日は来るのだろうか。

  ♪

 高校へ入学しても、中学の頃とは何も変わりはなかった。
 ただ、沙耶子がいないだけ。
 それでも、彼女はたまに俺に会いに家に来てくれる。
 最近、野球とそれだけが楽しみだ。

 二人で食卓を囲み、互いの学校の話をした。
「そっちの学校は、どうなんだ? 楽しいか?」
「うん。新しい友達もできたし」
 沙耶子の新しい友達。
 変な奴じゃなければ良いんだが。
「変な奴とは関わるなよ?」
「大丈夫。平野隼人君っていうんだけど、とっても優しい人なの」
「え? 男?」
「うん」
「へぇ……」
 よりによって男か……。
 まあ、沙耶子は可愛いし、男の友人がいれば何かと安心だろう。
 沙耶子と仲の良い、自分以外の誰か。
 それを考えると、なんだか寂しくなった。

 帰り際、沙耶子は俺に言った。
「綾人君、もう、私は大丈夫だよ。心配しないで」
「え?」
 彼女の言葉に、一体どんな意味が込められていたのか、よく分からなかった。
 しかし、次の瞬間の言葉で、その意味がようやく理解出来た。
「この前、お母さんが自殺したの」
 沙耶子は、とても虚ろな目をしていた。
 唐突な話に、俺は戸惑いを隠せない。
「今日は、これだけを伝えたかった。でも、随分と長居しちゃったね」
「なあ、沙耶子……」
 数秒の沈黙が続き、沙耶子は俺に笑い掛ける。
「じゃあね、綾人君」

 どうして、笑っていたのだろう。
 母親の死の報告をする直前までの沙耶子は、どうしてあんなに楽しそうに、自分の学校での境遇を語っていたのだろう。
 沙耶子が分からない。