俺や沙耶子も一般入試を終え、後に訪れた合否の結果は合格だった。

  ♪

 沙耶子の様子がおかしい。
 それに気付いたのは、受験が終わって間もない日の事だった。
 俺と話している時も、どこか上の空で、ずっと左の手首を押さえている。
 そういえば、左手首の傷はまだ癒えていないのだろうか。
 沙耶子の家庭事情や色々な事を察するに、あまり深入りは出来なかった。
 しかし、今ならその事に関しても支えになってあげる事が出来る。
 そう思えた。

 土曜日に沙耶子と街へ出掛けた。
 少しでも、沙耶子に笑っていて欲しかったから。
 一緒に映画を見て、食事をして、何件か店を周って買い物をして、本当に楽しかった。
「沙耶子。これ取っとけよ」
 俺は沙耶子に、先程の店で買ったリストバンドを渡した。
「これ……」
 もう一つ、同じ物を俺は自分の腕に着けている。
「ほら、おそろい」
 沙耶子は嬉しそうに笑う。
「今時、お揃いなんて……」
「あ、笑うなよ」
「でも、ありがとう」
 沙耶子は左手首に、俺と同じリストバンドを着けた。
 傷を隠せれば、辛い気も紛れるだろう。
 そう思っての、彼女への初めてのプレゼントだった。

 休み明け。
 昼休みの屋上で、俺は沙耶子と二人で話をした。
「なあ、そろそろ話してくれないか? その……傷の事……」
 沙耶子は俺に背を向ける。
 その瞬間、強い温風が吹き抜けた。
「知りたい?」
「ああ。それで、俺がお前の力になれるかもしれないから」
「……今回ばかりは、どうにもならないと思うの」
「どうして?」
「だって……」
 彼女は俺の方へ向き直る。