「うん。でも、蓮君は本当に美咲を恨んでる。何とかしなくちゃ……」
 他人を気遣っている余裕なんてないだろうに、沙耶子は必死だった。
 俺は彼女の手を握る。
「俺達で、あの頃を取り戻そう。四人で笑い合っていた、あの頃を」
「うん」
 沙耶子、蓮と美咲、四人で過ごした、あの日々を守りたい。
 ただ、それだけを願っていた。

 翌日、俺は蓮に美咲の事を話した。
 すると蓮は、いつもとは違った冷めた表情で「……そうか」とだけ言い、俺の前から去ってしまう。
 久しぶりに会った蓮は、どこか抜け殻の様な目をしていた。

 夏が終わり、受験の時期が迫っていた。
 俺達の様な三年生は部活を引退し、受験勉強に励んでいた。
 放課後に、沙耶子と図書室で勉強するのが最近の日課だ。
 俺と蓮は、前から目標としている高校へ行く事に決めている。
 蓮はスポーツ推薦で行くそうだ。
 俺も推薦を狙っていたが、謹慎を受けた身だ。
 そんな我儘は言っていられない。
 美咲はと言うと、俺と蓮が行くのと同じ学校へ学力推薦で入るそうだ。
 同じ学校を目指す事を期に、仲直りしてくれれば良いのだが、そうもいかない様だ。
「沙耶子は、どうするんだ?」
「私は、隣町の高校に行こうと思ってる。知り合いの少ない新しい所から、また始めたいの」
 たしか、その学校って光圀先輩が行った学校だった様な……。
「その学校って、光圀先輩が行った所じゃないか?」
「うん。でも、たぶん会う事はそんなにないと思う」
 そういえば、どうして光圀先輩は、沙耶子に告白なんてしたのだろう。
 それに、美咲を振った理由も、結局は分からず終いだ。


 三月を過ぎると、重くなっていたクラスの雰囲気が活気付いてきた。
 蓮や美咲は、愛でたく推薦に合格した様で、だいぶ気が軽くなったようだ。
 早速、蓮は高校野球に向けて体力の向上に励んでいる。
 美咲はというと、逆にする事がなくて困っているという。