彼女の緊張が解れれば良い。
そう思っての、俺らしくもないおふざけだった。

 本番になると、体育館内部の明かりは消され、窓やカーテンも締め切られる。
 誰もの視線が集まる舞台だけに、明かりが付いていた。
 合唱をするのは、俺達のクラスだけではない。
 勿論、他のクラスでも合唱はするのだ。
 二、三程のクラスの合唱が終わり、ついに俺達のクラスの出番がやって来た。
 皆が指揮者である美咲を先頭に、舞台へ上がる。
 部隊の上に全員が並ぶ。
 沙耶子はピアノへ、美咲は全員の視線が集まる前へ。
『合唱。想い出がいっぱいです』
 放送が掛かり、沙耶子はそれを合図にピアノを弾き始めた。
 伴奏が始まり、全員の歌声が体育館に響く。
 女子と男子の高低のパート。
 それらが綺麗に混ざり合う。
 俺、蓮、沙耶子、美咲、皆、どこか嬉しそうだった。

 合唱が終わった後、俺達は教室へ戻った。
「ありがとう」
 俺達に、最初にその言葉を言ったのは美咲だった。
「ああ。でも、本当に頑張ったのは美咲と沙耶子だ。俺がやったのは、合唱の順番決めや練習の時間決めくらいだから」
 蓮は頬をぽりぽりと掻く。
「まあ、俺は何もしてないんだけどねぇ」
「そんな事ないよ。皆、頑張ったんだよ」
 沙耶子は、そう言って笑っている。
 知り合いもいない学校に転校して来て、今ではこんなにクラスに打ち解けて、皆の前でピアノまで弾いた。
 そんな沙耶子が、俺は本当に凄いと思えてならなかったのだ。

 蓮は野球部のメンバーと、学校を抜けて飯を食いに行くそうだ。
 美咲は光圀先輩と文化祭デート。
 俺は昨日の約束通り、沙耶子と文化祭を周った。

 夕日の差す帰り道。
途中にある土手道に自転車を停めて、俺と沙耶子は芝生に座った。
「今日はありがとう」
沙耶子は俺にそう言った。
「どうって事ない。それに、それは俺の言いたかった事だ。今日はありがとうな」