とても上品な雰囲気のある、爽やかそうな出で立ちだ。
 美咲は満面の笑顔を浮かべて、両腕でギュッと彼の右腕を掴んだ。
「美咲、その人は?」
 蓮が彼女に訊ねた。
「私の彼氏!」
「こら、そんなに大きな声で言う事じゃないだろ。皆が見ている」
 美咲に腕を抱かれている先輩が、恥ずかしそうに注意する。
「あ、ごめんね。幸太」
 ポカンと口を開けている俺達に、彼は言う。
「僕は三年の光圀幸太。ちょっと、美咲を借りて行って良いかな? せっかく会えたから、一緒にいたいんだ」
「俺達は構いませんよ」
「そうか、よかった。じゃあ、美咲。行こうか」
「うん!」
 美咲はベタベタと光圀先輩の腕に抱き付きながら、どこかへ行ってしまった。
「さぁーて、俺も退散するとしますかぁ!」
 蓮はそう言うと、俺の静止も無視してサッサとどこかへ行ってしまう。
 三年生で賑わっている廊下に、俺と沙耶子だけが取り残された。
 ふと、制服の裾を後ろから引っ張られる感触がした。
 振り返ると、沙耶子は頬を赤くして、俺の制服の裾を掴んでいる。
「どうした?」
「あ、あの……えっと……明日のクラス合唱が終わったら……」
「何だよ?」
「文化祭、一緒に周ってくれないかな……なんて……」
 それは裏返り気味な声での、彼女なりの精一杯な頼みだった。
「良いぜ。俺、一緒に周ってくれる奴なんていないから、助かるよ」
 俺の言葉に、沙耶子はホッとした様に胸を撫で下ろした。


 翌日、クラス合唱の練習は、朝一の体育館で行われた。
 音楽室とは違って体育館は広い為、全員の声が良く通る。
 練習の後、沙耶子の元へ行くと、彼女は酷く緊張していた。
 練習では、難なく伴奏をこなす事が出来ていた様だが、いざ本番を前にすると不安でしょうがないのだろう。
 こんな時、どう声を掛けたら良いのか、よく分からない。
 彼女の右肩に、後ろから軽く手を置いた。
 こちらを振り向く時、それを見計らって指を立てた。
 柔らかな彼女の頬が指先を覆う。
そのまま笑い掛けると、沙耶子も笑い返してくれた。