「私の……」
 声があまりにも小さいので、何を聴いて欲しいのか分からない。
「え? 何?」
「だから……聴いて欲しいの。私の……ピアノ」
「ピアノ?」
 宮久保は頷くと、隅に置いてあるグランドピアノの椅子に座った。
 蓋を開けると、白い鍵盤が露わになる。
「おいで」
 そう言われ、俺もピアノの側に寄る。
 彼女は一回だけ息を吐き、鍵盤に指を躍らせた。
 綺麗な音色が音楽室に響く。
 それは聴いた事もない曲。
 しかし、どうしてか聴いているだけで安心する。
 楽譜もなく、まるで歌う様に、宮久保は音を奏でていた。
 演奏が終わると、彼女はゆっくりと鍵盤蓋を閉じた。
 宮久保は、ポカンと口を開けている俺に笑い掛ける。
「こんな演奏が出来るのに、どうして伴奏者に名乗り出なかったんだ?」
「不安だったから。私のピアノが、他人からはどう聴こえているのかなって」
 そんな彼女の内気な性格が、折角の才能を隠していたのだろう。
 しかも、それが影響してあのドジっぷり。
 とりあえず、自信を付けさせる事が重要だな。
「凄く上手だ。お前なら、出来るんじゃないか?」
「出来るのかな? 私に……」
「ああ、とりあえず、委員長に話を付けよう。すぐに呼んで来るから」

 委員長を音楽室に呼び出し、ピアノを聴いて貰った。
 暫くして、なぜか蓮も音楽室に入って来る。
 普段は見せる事のない、ピアノを弾く彼女の表情。
 俺達は、それに魅入られていた。

「凄いよ! 宮久保ちゃん!」
 伴奏が終わると、委員長は宮久保の元へ駆け寄り、彼女の手を握った。
「え? あぅ……」
 委員長の態度に動揺しつつも、宮久保は嬉しそうに笑っている。
「宮久保ちゃんのピアノがあれば、充分な合唱が出来るよ」
 隣で、蓮が突然騒ぎ出す。
「よっしゃ! なんか皆で頑張ろうぜ!」
 蓮が俺の肩に手を廻して言う。
「俺達も協力するから!」