キッチンからは、何やら水を切る音や、どことなく香ばしい香りがしてくる。
「できたよ」
 キッチンから彼女の声が聞こえた。
 ソファーから重くなった体を起こし、テーブルの椅子に座った。
 テーブルの上には、二人分の冷やし中華と、焼きおにぎりが二つ乗った皿が置かれている。
「これ、一人で作ったのか?」
「うん。おいしいと……良いんだけど」
 よそよそしい落ち着かない素振りを見せながら、宮久保も向かいの椅子に座った。
「食べて良いか?」
「うん、どうぞ」
「いただきます」
 彼女の視線が、俺に集中する。
 そこまで深刻な表情をされると、何から食べたら良いのか迷ってしまう。
 とりあえず箸を取り、冷やし中華に手を付けた。
 麺の上には細く切り分けられた、トマト、キュウリ、ハム、焼き卵が、乗せられている。
 具と麺をバランス良く箸に取り、口へ運んだ。
 甘酢の味が、口の中へ広がる。
「……旨い」
「本当!?」
 強張っていた彼女の顔が、明るく晴れる。
「ああ、旨いよ」
 毎日、口にしている油濃いインスタントラーメンの、揚げられた麺や乾燥された野菜とは違い、どこか新鮮な味がした。
「焼きおにぎりも食べてみて!」
「おう」
 焼きおにぎりを取り、上の方を一口かじってみる。
 ご飯によく醤油が滲みこんでいて、とても旨い。
 学校の給食以外で米を食べたのなんて、何年振りだろうか。
 感動しながら、おにぎりを頬張る俺を、宮久保は嬉しそうに眺めている。
「お前は、食わないのか?」
「え? ああ、そうだね。いただきます」
 そう言うと、彼女も食事を始めた。

「普段から、こんな風に家事をしてるのか?」
「うん。お母さんは、仕事で忙しいから」
 母の話をする宮久保は、どこか悲しげだった。
 もしかしたら、あまり他人には話したくない事があるのかもしれない。