「おう、料理か」
「違うよ」
「え?」
「お料理の前に、やっておく事があるでしょ?」
 料理の前にやっておく事……。
 家事経験のない俺には、全く見当が付かない。
「何だよ?」
「掃除。こんな部屋じゃ、どんなに美味しいご飯を食べても、気分は晴れないから。それに、なんか埃っぽいし」
 料理をしに来てくれたというのに、なんだか宮久保に対して、とても申し訳ない。
「……悪いな」
 彼女はにっこりと笑う。
「大丈夫。でも、烏丸君も手伝ってくれるよね?」
「ああ、勿論」

 二人で床に散らばった雑誌や菓子袋のゴミを分別し、物置きの奥底に仕舞ってある掃除機を引っぱり出した。
 床一面に掃除機を掛けたかと思うと、次は宮久保に雑巾掛けをさせられた。
 腕や足に負担の掛かる事は、男の仕事なのだそうだ。
 最後に、テーブルの上に積まれたインスタントラーメンは、どうにか段ボールに詰め込み、物置きに仕舞った。

 掃除を終えた頃には、既に午後の二時を過ぎていた。
「じゃあ、お料理しようか」
 ゴミ一つない部屋で、爽やかな笑顔を俺に向ける。
「……ああ、そうだな」
 少々、疲れ気味に返答した。

「烏丸君はご飯ができるまで待ってて。疲れたでしょ?」
「ああ、そうだな……。たしかに、疲れたかも」
 部屋の隅に置かれているソファーに、仰向けで転がった。
 キッチンの方からは、袋から食材を出す音や水を流す音が聞こえて来る。
 あのキッチンで、誰かが料理を作るのなんて何年振りだろう。
 この家に雫がいた頃は、仕事で帰って来れないおふくろの代わりに、よく彼女が料理を作ってくれてたっけ。
 でも、どんな味をしていたんだろう。
 それすらも、思い出す事が出来なかった。

 重い目蓋を開け、半身を起した。
 どうやら、ソファーに横になっているうちに、寝てしまっていた様だ。