「大丈夫。運動だけは欠かしてないから」
「駄目だよ!」
 宮久保は俺の手を握り怒鳴った。
「インスタントラーメンばっかり食べて、炭酸ばっかり飲んでたら、そのうち死んじゃうよ! ちゃんとした物を食べないと駄目だよ‼」
 こんなに感情的になった宮久保を、俺は初めて見た。
 今まで大人しい奴だと思っていたが、怒鳴る事もあるんだな。
「もしかして、俺の事を心配してくれてるのか?」
 冗談混じりの言葉に、宮久保は一気に赤面し、そっぽを向いた。
「そ、そんな……当たり前だよ!」
「え?」
「烏丸君がいなかったら……私……。何も出来ずに、ずっと一人でいたと思う。だから……」
「だから……何?」
「今度、烏丸君の家に、お料理しに行っても良いかな?」
「どうして?」
「お礼がしたいから。それに、烏丸君には、美味しい物を食べて欲しいから」
 そう言って、宮久保は俺に笑い掛けた。

 時間の空いている日と家の住所を教え、彼女と別れた。
 こうして、夏休みの初日の夜は更けていったのだ。


 一週間程が過ぎた日の昼頃に、宮久保は俺の家を訪ねて来た。
 彼女の手には、大きめの買い物袋が一つ。
 中には食材が幾つか入っていた。
「いらっしゃい。散らかってるけど……」
「大丈夫。常識の範囲内なら気にしないから」
 そうは言った物の、俺の常識が彼女の常識の範囲内に収まるかどうか……。
 特に、リビングのテーブルの上に置いてある、インスタントラーメンの山を見たら、どう思うだろう。
 自虐的な考えを展開させながら、宮久保をキッチン隣のリビングへ案内した。
「やっぱり」
 部屋に入るなり、宮久保は呟いた。
「何が? もしかして……テーブルの上の、あれか?」
「うん。まあ、なんとなく見当は付いてたんだけどね」
 彼女は呆れた様に振る舞う事もなく、持っていたスパーの袋を床に置いた。
 そして、背中に垂らしてある長髪を後ろで結び、腕捲りをする。
「じゃあ、始めようか!」