野球部の練習は朝から始まった。
 日射しの強まる炎天下の下、俺達は練習に励んだ。
 類を速く走る度に、心地の良い風が吹く。
 バッティングをすれば、ユニフォームの露出した肌から汗が飛ぶ。
 達成感のある練習が出来て、俺はとても満足していた。

 休憩時間になると、俺は木陰に置いたバックからスポーツドリンクを取り出し、一気に口に流し込んだ。
 氷で冷えたスポーツドリンクが、乾いた喉によく沁みる。
「くっはあ‼」
 つい、そんな声を上げていた。
 隣で蓮が、飲んでいたスポーツドリンクを噴き出す。
「親父かよ!」
「ああ、こうやって俺達は親父になっていくんだろうな」
「急に、どうしたんだよ? 俺達、まだ中学生だぞ」
「あれ見てみろよ」
 俺は木陰の外を指差した。
 その方向には、現投手である鈴木先輩が熱心に投球練習をしている。
「鈴木先輩が進路の事について言ってたんだよ。この街の私立高のスポーツ推薦狙うって」
「あの人なら、出来るんじゃないか?」
「そうかもな。来年は俺もスポーツ推薦で、そこへ行こうと思ってる」
 蓮が苦笑いを浮かべる。
「マジかよ……。俺はどうしようかなぁ。あの学校、学力高いし」
「頑張って、お前も来いよ」
「え?」
「俺、ずっとお前と野球をする気でいるから」
 蓮は頬を真赤に染め、俺から目を反らした。
「な、何だよ……急に」
「なんかさ、鈴木先輩を見てたら、そんな事を考えてたんだ。来年の俺達は、どうしてるんだろうなって」
「たぶん、受験に燃えてる」
「だろうな」
 木陰の外から「集合」と掛け声が掛かる。
 蓮は立ち上がり、俺に手を差し出した。
「とりあえず、今は野球で燃えておこうぜ」
「そうだな」
 短く答え、彼の手を取った。


 部活を終えて、帰宅した頃には夕方になっていた。
 ポストには手紙が数枚。