「お前さぁ、俺がいなかったらどうするつもりだったんだ?」
「……歩いて行くしか、なかったかも……」
「ハァ!? こんな道をずっと歩いて行く気だったのか!?」
「……」
「お前、また倒れるぞ」
「……ごめん」
 二人で自転車に乗っている為、宮久保の顔は見えないが、なんとなく彼女の表情が目に浮かんだ。
「大丈夫。別に、気にしてないから。それに……」
「?」
「ある意味、良い経験になった」
「ある意味?」
「ああ。こんな日があっても良いなって……そう思えたんだ。いつもこの田園に囲まれた道を通って、学校へ行って、勉強して、部活をやって……同じこの道を通って帰る。毎日が同じ事の繰り返しだからな」
「烏丸君は……この道は嫌いなの?」
「別に、嫌いじゃないさ。お前は?」
「私も嫌いじゃないよ。いや、好きかもしれない。前に住んでいた所に、似た様な景色があったから」
 どうしてだろう。
 後ろから聞こえて来る彼女の声は、なんだか悲しそうだった。
 前に住んでいた街に、心残りでもあるのだろうか。
 まあ、余計な事は聞かない方が良いな。
 聞いたが為に、彼女を嫌な気分にさせる事があるかもしれないし。

 住宅街に出ると、宮久保は俺の背中を軽く叩いた。
「どうした?」
「停めて」
 彼女の言う通り、その場で自転車を停めた。
「ここまで来れば大丈夫だから。もう降りるね。ありがとう」
 そう言うと、宮久保は鞄を持ち自転車を降りた。
「家はこの辺なのか? 急いでる訳じゃないし、家まで乗せてっても良いんだぞ?」
 彼女は首を横に振る。
「大丈夫。ここまで来れば大丈夫だから」
「……そうか」
「また二学期にね」
「ああ。またな」
 その言葉を最後に、俺は彼女と逆方向の道を走って、家に帰った。