「大丈夫だから!」
 宮久保は俺の言葉を遮って、そう叫んだ。
「え……何が?」
 訳も分からず問う俺に、宮久保も問い返す。
「え? あの……これの事じゃないの?」
 宮久保は自転車の前輪を指差した。
「自転車の……タイヤ?」
 自転車の側に屈んでタイヤを触ってみる。
 触った時の抵抗が全くない。
 これは明らかにパンクだ。
「パンクしてるよ……」
「本当に、大丈夫だから」
 俺はようやく理解した。
 宮久保は自転車がパンクしていた事に関して、俺に世話を焼かせたくなかったのだろう。
「家は、ここから何分?」
 俺の言葉に彼女は焦り出す。
「本当に大丈夫だから……」
 このままじゃ、「大丈夫だから」の一点張りだ。
 仕方がない。
 屈んだまま周りを見渡した。
 どうやら、こんな然う斯うをしているうちに、かなり駐輪場から人が減った様だ。
「なあ、宮久保」
再び彼女の名前を呼んでみた。
「……何?」
「家は、ここからどれくらい?」
「だから……大丈夫だって……」
 俺は屈んだまま、強がる彼女のスカートの裾を握った。
 数秒もしないうちに、宮久保は一気に赤面する。
「か、烏丸君……これは……何?」
「家、ここから何分?」
 俺の問いに、彼女は小さく呟いた。
「……歩いて……四十分くらい……」

 二人分の荷物を前籠へ、収まり切らなかった荷物を背中に背負い、宮久保を荷台に乗せて学校を出た。
 あの後、親を呼ぶ事を提案したのだが、彼女の親は夜遅くまで仕事をしていて、こんな事をしている余裕がないのだそうだ。
 中学校の周辺には、広い田園が広がっていて、そこを抜けるとようやく商店街へ出る。
 宮久保の家は、その先のマンションの密集地を通り越した住宅街にあるそうだ。
 田園を吹き抜ける風は、とても涼しくて気持ちが良かった。