自分にそう言い聞かせてみる。
 とりあえず、あいつは気軽に話せる友達を作るべきだ。
 そうすれば、俺が世話を焼く必要もなくなるし。
 そんな事を考えているうちに、クラスメイト達が登校し、教室は徐々に騒がしくなっていった。
 暫くして、宮久保が後ろのドアからこそこそと入って来る。
 覚束ない足取りで俺の後ろを通り、隣の席に座った。
 そして、ぎこちなく俺に言う。
「……お……おはよう」
「あのさぁ……どうして俺に挨拶するんだ?」
「え? あの……えっと……」
「他にいるだろ、挨拶する奴。あの辺に」
 俺は前の方の席で固まって話している、数人の女子グループを指差した。
「あの辺の奴と絡んでこいよ」
「む、無理! 絶対……無理だから!」
 大きく首を横に振る。
「なんで?」
「だって……何を話せばいいか……分からないし……」
「そんなの世間話で良いんだよ」
「で、でも……」
本当に、鈍臭くて面倒な奴だな。
「お前は、只でさえ転校初日に転んでるんだ。こうなったら、自分から話しかけるしかないぞ?」
「……頑張ってみる」
「頑張ってみるんじゃなくて、頑張るんだよ」
 不安げな表情を浮かべながらも、宮久保は頷いた。

 授業や間の休み時間を経ても、宮久保は俺以外の誰かに話し掛ける事は出来なかった。
 そして、とうとう一日の半分を過ぎた時間、昼休みになった。
「結局、ダメかぁ……」
「ごめん……」
 彼女は、俺に対して申し訳なさそうに俯く。
「謝ってもしょうがないだろ……」
 昼休みという事もあって、教室内はかなりざわついている。
 話し掛けるとしたら、時間が長く教室のざわめきに溶け込めそうな、この時間が最適だ。
 おまけに俺を除く大抵の男子は、外でサッカーやキャッチボールをして遊んでいる。
 クラスメイトの人数が少なければ、宮久保の負担も減るだろう。
 それでも彼女は、集団を作って笑い合っている、女子グループの一団を眺めているだけだった。
 どうしたものか……。