その問いに父は黙り込む。
「あー、もう! どうするのよ!? こんな事を公にしたら、私やあなた、それ以外の人間にも大きな迷惑が掛かるのよ!」
「……」
分かっていた。
 父親は俺だ。
 こうなる事は、分かっていたのだ。
 しかし俺と雫は、分かっていながらも関係を持った。
 この頃の俺達は、自分が思っている以上に幼い子供だったのだ。 
「父親は誰なのよ!?」
「……見当は付くだろ」
「まさかっ!」
 立ち上がった母を、彼は制止する。
「綾人を責めても何も変わらない。まず、これからの事を考えよう」
「……」
 僅かな沈黙が続いた後、父はある決断を下した。
「子供……降ろすしかないな。その後は、雫を県外に住まわせよう。それしかない。綾人と雫の為にも……二人を離さないと……」
 母は俯き泣いている。
「ありえないわ……。こんな事が……あって良い筈ないわ。兄妹同士なんて……」
 母さん、父さん、そして雫……ごめんなさい。
 頭の中で、その言葉を連呼しながら、ドアに手を付き息を殺して泣いた。


 数日後、親戚の叔父が車で俺の家を訪れた。
 きっと雫を迎えに来たのだろう。
 あの日、両親が家に揃ってから、雫とは会っていない。
 会えば、今以上に雫や父や母に罪悪感を感じてしまいそうだから。
 二階の自室の窓から外を見ると、雫と叔父、父と母が庭にいた。
 叔父が雫を病院から連れて来たのだろう。
 そして、彼女を遠い所へ連れて行く。
 もう二度と会う事は出来ない。
 そんな気がした。
 悲しげな表情を浮かべている雫。
 両親と何かを話している叔父。
 そんな光景を見ていると、この場にいても立ってもいられなくなった。
 部屋を飛び出し、階段を駆け降りた。
 玄関で靴を履き庭へ出ると、四人の視線が俺に集中する。
 俺は雫の側へ駆け寄り、彼女を後ろに叔父の前に立った。