夕暮れ時の真っ赤な空は、とても眩しかった。
 所々に植えられている枯葉が茂る木蓮からの木漏れ日が、ぬかるんだ地面をオレンジ色に染めている。
 あまりの眩しさに、思わず目を瞑った。
 目を瞑れば何も見えなくなる。
それと同じ様に、自らが抱く悩みさえも見えなくなり、忘れる事が出来るような気がした。
 しかし、それはただの現実逃避だ。
 こんな無意味な事をしている自分が、情けなく思えてくる。
「馬鹿らしい」
 そう呟いて、目を開けた時だ。
 逆光で良くは見えないが、何かが地面を目指して落下するのが見えた。
「何だ? あれは」
 地面がぬかるんでいる上に、枯葉が大量に散らばっている為、あまり衝撃のある音は出なかった。
 落下したそれが気になり、恐る恐る近寄ってみた。
 ほんの少しの恐怖心と好奇心が混ざり合った様な、妙な感情が僕を動かす。
 少しずつ近付いて行く度に、それの正体が明らかになっていく。
 腰まである長い髪を乱れさせ、地面にうつ伏せで横たわる細い少女の体。
 頭から鈍く流れる真赤な血。
 そして、左腕に巻かれているリストバンド。
 頭の中に一人の少女の名が浮かぶ。
 沙耶子。
 ここに倒れている少女は沙耶子だった。
「あ……あああぁぁ」
 喉の奥から押さえる事の出来ない悲痛な声が出てくる。
「ぁぁああああ‼」
 やがて、その声は絶叫に変わった。
「どうして……」
 どうして、沙耶子はこんな所で倒れているのだろう。
 どうして、こんな事をしたのだろう。
 数々の疑問が頭の中に浮かび、ある考えに直結する。
 ここ最近の彼女の行動。
 それは常に僕と共にあった。
 ならば、こんな行動を取った原因は……全て僕にあるのではないか。
 僕の抱いた疑問は恐怖へと変わり、やがて罪悪感へ変わった。
 とても嫌な気持ちで胸が一杯になり、この場から早く逃げ出したいと思う感情が、僕を無意識の内に走らせていた。
 走る度に吐き気が込み上げて来る。
 必死に口を抑え、込み上げる吐き気と格闘しながら、一目散に走った。