届かないメロディーが、彼女の肩を軽やかに動かす。その身振りで、去年流行っていた曲だと気付いた。 切ない少女の恋心を、アップテンポなリズムで歌い上げたヒット曲。 その場所だけが、ゆっくりと時間が流れている。もしかすると、そこだけが止まっているのかも知れない。 抜き取られた空間。 彼女の後ろ姿が長く濃い影に溶け込み、曖昧になっていく。 忘れかけていた。 そうかも知れない。 .