「おい、竜、同窓会はあとだ。早く出発しようぜ~」
気づくと、3人はとっくに車に乗っていました。
薫は僕を置いていくようにわざと車を走らせました。
「お~い、待ってくれよ~」なんてコントみたいなノリは僕には出来
ず・・。
僕は足取りが重かったのです。
雛の性格を少し思い出してきました。雛はうるさくて、説教じみていて、男を立てたない男勝りの女なんです。
僕はいつも見下されている感じがしていました。
弥生とは大違いです。
・・しかたなく、車に乗り込んだ僕は、雛と冷静に会話をするように努めました。
だって、僕の心は弥生のことだけを考える事に決まっていたんです・・。そうです。・・・恋です。
弥生以外には興味ないんです。
これは・・ラッキーでした。
端から見ると、リラックスして雛と話している僕は、つまらない男には見えないらしいし、その場の雰囲気を壊さないで済んだのですから。
僕は少し運のいい男なんです。
「ねえ、竜、今、彼女は?」
雛が僕に聞いてきました。
「いたら、ここにいないって」
僕はそう答えました。
「いたらいない?・・竜、ナゾナゾかよ~」
僕は雛を真顔で見ました。
笑えなかったのです。
「お前さ、その言葉遣いなんとかならないの?」
「ん?無理無理。あたしゃ、弥生ちゃんみたいに気取らないの!」
「はっはっはっ」
フォローのつもりなのか薫が笑いました。
「え~、なんかやな感じ~、竜ちゃん!彼女を作りにきたんだよね~、雛ちゃんと付き合っちゃえば~」
助手席に乗っている弥生が僕に言いました。
「ち、違うよ!!」
僕はテンションが急に上がり否定しました。
・・・だって・・・。
「おっ!竜、動揺してんな。久しぶりに会って雛ちゃん気に入ったんじゃないの?」
薫が運転席からチャチャを入れました。
雛は僕と一緒の後部座席でなぜか勘違いしちょっと照れていました。
そう、みんな勘違いしていたんです。
まさか、僕が好きになる人が一番近くにいた弥生だったなんて・・。

僕はこの日の夜から、弥生への気持ちをノートに手紙のように書き綴りました。
運よく僕は文才はあったんです。