この話は私の大切な恋の話です。

齢90を超えてしまい、家内に先立たれ、子供には恵まれず、
そして友人もいなくなった今の私が、老人ホームに入るため、家を整理していたところ、ある一冊のノートを見つけました。
それは、私にまだ恥じらいがあり、恋というものを楽しんでいた、20代後半に書いた思い出のノートでした。
誰にも言えなかった恋。
私はしばし忘れていましたが、このノートに書いた物語のお蔭で記憶が蘇えってきました。


1章・・クリスマスイブ

クリスマスイブの前日の夜、友人から電話がかかってきました・・・。
「おお、明日暇?」
「なんだ?急に」
僕は明日がクリスマスイブだということに敏感に反応しました。
が、友人に気づかぬフリをしました。
当然です。この年になってまで彼女もいなく、クリスマスイブをずっと気にしていたなんて友人に知られたくなかったのですから。
「明日空いてたらさ~、ちょっと付き合えよ。ドライブ行こうぜ!」
ホラ来た!と僕は思いました。
女の紹介だと思ったからです。
「まあ・・時間あるといえばあるけどよ~、どしたの?」
「だって明日イブじゃん!つまんね~から皆で遊びいこうぜ、いいだろ?」
皆・・・いつものメンバーか・・、と僕は思いました。
いつものメンバーとは、電話の主の薫と、もう一人は弥生です。
僕ら三人は付き合って20年はたつ仲良し3人組で、年も20代後半の同い年。
が、今回はちょっと違うのではないか?と、薫にちょっと期待しました。
「まあ、いっかな」
僕の答えはもちろんイエス。
気負いしているのがばれないようにし、頭の中では明日のコーディネートを早くも模索中です。
「んじゃ~さ、明日20時に迎えに行くよ。ツリー見に行こうぜ」
薫は矢継ぎ早に喋るとさっさと電話を切ってしまいました。
まあ、僕としてはラッキーです。
焦りを悟られないように必死でしたから・・。
といってもこの時点では3人で出かけるということも考えられましたけど。
それならそれで・・、と、ちょっと寂しいようなホッとするような・・。