彼女に対する愛情が溢れ出すように

私は涙を流していた。



…こんなにも、私は妻を愛していたのか?


そう思うくらい感情は膨らんでいった。

もう触れられないなら、これくらい…いいだろう?

本当に願っているモノは手に入れてるのに

思い通りにはいかない







彼女は私の手にそっと触れ

唇が微かに触れるだけのキスをしてきた…



妙を思い出す。

彼女との初めての口づけは、やはりこんな感じだった。

──何故、会ったばかりの彼女が知っているのだろう…

そう思いながらも、たったそれだけの淡い感触に酔いしれていた。





しばらくして、彼女が何かを言った。

  「パチン!」


その音とともに目を開けた。

自分でも驚くくらい涙を流していて…それを見た彼女が白いハンカチを差し出してくれた。

私は彼女に金を支払いオフィスを出る時、彼女はまた笑顔で言った。

「古島さん。奥様は…きっと古島さんの事、愛してますよ。最期に言ってあげてくださいね」

「ありがとう…」



──『最期』くらいは、ね…





人生の最終日まで、あと数日か…数週間だ。






私は妙の待つ家へ向かった。