泉の抱きしめてくる腕がぎゅっと強くなった。

「・・・明日、仕事やから。スーツがないし」

私もできることなら、泉と一緒にいたいけど。
でも。明日の仕事に行く服がないのよね・・・

「一緒にいたい・・・」

消えそうな声でつぶやく泉。
一緒にいたいのは、私も同じなんやけど。

「泉君、明日仕事は?」

「明日は昼から収録があるけど」

「・・・じゃぁ、うちにくる?ここと違って狭いけど」

泉が少しびっくりした顔をする。

「あの、どう・・・かな?」

恐る恐る泉のほうを見ると、泉はがばっと立ち上がって、寝室の方へ走っていった。
びっくりして、寝室のほうへ追いかけた。
泉は着替えを取り出して、かばんに詰めているようだった。

泉の準備が終わるのを、ベッドに座って待った。


そのとき、ベッドの脇に、ピアスが落ちているのを見つけた。
拾ってみると、小さな石が入った、かわいいハート型のものだ。

・・・泉君のではない、よね。

今朝の女性の声がよぎった。

泉君は違うって言ってたけど…なんでベッドにピアスが。
いや、泉君、優しいから、ベッドに寝かせてあげて、そのときに落ちたとか。

また、いろんな考えが頭の中をめぐっていった。
泉を信じようと思ったはずなのに。嫌な考えが頭を巡っていった。


「奈緒、準備したよ」

後ろから、声をかけられて、びくっとする。
おもわずピアスをもとあった場所に戻してしまった。

「う、うん。いこっか」


・・・聞きそびれた。


そのまま、複雑な気持ちを抱えて、家を出る。タクシーに乗って、家へと向かった。