「何を?」

多分、部屋がざわついている理由だろうが、俺は部屋にいなかったから分からない。

「あの、高松さんが、女の子のために、仕事に行くっていったらしいっすよ!」

え?と聞き返す。

「今、マネージャーさんが、その子のためのチケットを1枚確保に走り回ってるみたいなんすけどね。最初、聞いてないから仕事いかねーって言ってた高松さんを、仕事に行けっつって、こっちに向かわせたらしいんっすよ」

・・・そういや、さっき、高瀬さんも似たようなことを。
でも、高瀬さん、マネージャーさんから話、聞いてなかったはずだし。
話してる内容だけで、あそこまで分かったってか?
すげーよ、高瀬さん・・・

違うところで感心していると、思わぬ名前が出てきた。

「その、高松さんを動かした女の子の名前が、奈緒ちゃんって言うらしいんっすよ」


鬼無の口から出た名前に動揺した。

「え?奈緒ちゃん?」

「そう!なんでも奈緒ちゃんに感謝しろよって、電話で高松さんがそう、言ったらしいっすよ」

大部屋内でも、スタッフの間でも、【奈緒ちゃん】って子の話で持ちきりらしい。
理由は多分、高瀬さんが言ってた内容そのまんまだろう。


「なぁ、要。一回、奈緒ちゃんに電話してみろよ」

ぼそっと言われて、少し震える手で、携帯のリダイヤルを押した。
しかし、聞こえてくるのは、コール音ではなく、不通のアナウンスだった。


「だめだ、つながらない」

高松に連れて行かれるところを目撃されていて、今度は高松自身の口から、奈緒の名前が出た。今、一緒にいるのは、本当に奈緒なんだろうか?

不安で不安で仕方がない。


はぁ、とため息をついて、壁にもたれかかった。