「じゃ、なんでこんなによくしてくれるんですか」

彼氏がいるの分かってるのに、何でそんなことするんだか、さっぱり分からなかった。

「ひとつは、万分の一の確立で、いなかった場合。もうひとつは、自分の方が幸せにできると思ってるから」

顔色一つ変えずにさらっといてのける高松。
なんでそんなにけろっとしているのか。
高松の発言に、軽いパニック状態だった。

「た、高松さん!?」

「言うたやろ?俺は、奈緒が好きやって。誰とつきおーてるんか知らんけど、あんなに泣かすようなやつと一緒におって楽しいか?幸せか?」

聞かれてすぐに、はい、と言えなかった。
今は幸せか?楽しいか?と言われたら、そうじゃない。
今楽しいと思わせてくれているのは高松であって、泉じゃない。
泉のことを思うと、正直、辛くなる。

「俺やったら、絶対に泣かせへんし、辛い思いもさせへん。いつも笑って、楽しい気持ちで、幸せな気持ちでいさせることができる。そう思ってるから、俺は、奈緒のそばにおんねん」

信じられないくらいくさい台詞だ。
でも、真剣にこんなことを言われたら、ホントに、少しだけだけど、ときめいてしまう。

「私は・・・今の彼氏が好きですから。無理ですよ」

高松の顔をみることができない。
見たらきっと、気持ちが揺らいでしまう。

「ええよ、それでも」

高松の言葉が、まだ続きそうでドキドキする。

「それでも俺は、あきらめへんだけやから」

その後は、一言も喋ることができなかった。
喋ったら、きっと。自分でも分けの分からないことになりそうだったから。
ただただずっと、下を向いていた。


高松の車が、劇場の出演者専用の駐車場へと入っていった。
駐車場に入ったところから、楽屋への扉を開ける。

「じゃ、頑張ってください」

そういって、その場を離れようとしたときだった。

「何言うてんねん、こっちこっち」

「へい?」

変な声とともに、高松に引っ張られて、楽屋の方へと一緒に入ってしまった。