ただ静かに、まつたかの話を聞いていた。

「ちょうど、奈美が24になって少したったくらいの時のことやと思う。今思えば、奈美は、君を身ごもってたんやな。これから生まれてくる君のことや、息子のゆうき、俺のことを思って、身を引いた」

すぅっと涙がこぼれた。
なぜだかわからない。悲しいとか、憎いとか、そういった、負の感情とは別のものがあった。

高松も、まつたかも。何も言わずに、静かに見守ってくれていた。


しばらくの沈黙の後、奈緒が口を開いた。

「お母さんのことは、愛していましたか?」

「もちろん」

力強く頷く。それを聞いて、さらに涙があふれた。

「そう、ですか。それを聞けて、よかったです」

まつたかが、そっと。奈緒を抱きしめた。

「君にも、奈美にも。きっと苦しい思いをさせたと思う。申し訳なかった」

「いえ・・・」

「奈美は・・・幸せだっただろうか?」

聞かれて、こくん、と頷いた。



「お母さんは、幸せでした。私のことを大事に育ててくれました」

そう言うと、私の頬に、私のものではない、冷たい何かが落ちてきた。